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コース主任ご挨拶

コース主任 松本 義久

 令和6(2024)年4月より原子核工学コース主任を拝命しております松本です。私自身の専門は放射線生物学・医学です。放射線によってDNA損傷が生じたときに、細胞がどのようにしてこれを見つけ、修復し、細胞自身、個体、そして種を守るかを明らかにし、その成果を放射線によるがん治療や放射線防護に活かすことを目指して研究を行っています。

 私たちが直面している喫緊の課題の一つに地球温暖化があります。カーボンニュートラル社会の実現に向けて、再生可能エネルギーを含め、世界中でさまざまな研究開発が行われています。原子力については、2011年の福島第一原発事故の反省と復興、廃炉などの多くの困難な課題への取り組みが必要とされていることは言うまでもありません。しかし、その一方で、ウクライナ情勢などを受け、エネルギー安全保障の観点からも、ベースロード電源として重要な役割を担うことが求められています。

 今日の医療の中で、放射線は病気の診断と治療に欠かせないものとなっています。この日本をはじめ多くの国で長寿化と高齢化が進んでいく中で、高いQOL(Quality of lifeで、「生活の質」、「生命の質」あるいは「人生の質」と訳され、WHOの定義によれば、単に疾病がないことにとどまらず、身体的、心理的、社会的にどれだけ満足のいく状態にあるかを意味します)の実現が希求されています。がんの治療において放射線は、組織や臓器の機能、形態の温存が可能であることなどから、QOLを尊重する治療としての地位を確立してきました。診断においても、がんをはじめとする疾病を早期に発見し、進行や悪化の前に治療することを可能にするなど、QOLの向上に貢献しています。

 このように、原子核に秘められたエネルギーには極めて広く、高い有用性があります。しかし、使い方を誤れば、多くの人の生命や生活を脅かすことになります。原子核の有用性を安全に、また十分に引き出すには、多くの学問分野の知と技術を結集することが必要です。そのため、原子核工学は3学院5系にわたる複合系コースとなっており、さまざまな分野を体系的に学べるカリキュラムが用意されています。そして、物理、化学、生物学、工学、社会科学に至る幅広い分野において、先導的な研究を行っている研究室があります。さらに、本年10月の本学と東京医科歯科大学との統合による「東京科学大学」の誕生に際し、理工学と医歯学の融合による発展が期待されます。

 また、原子核工学分野は国際的な連携・協力が強く求められる分野です。そこで、本コースでは、米国、欧州、アジアの各国の大学・研究機関や、国際原子力機関(IAEA)、経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)などと強力なネットワークを構築し、毎年修士課程あるいは博士課程の皆さんを派遣しています。また、マサチューセッツ工科大学(MIT)との単位互換型交換留学プログラムも実施しています。

 皆さんがこのような充実した環境の中で学び、研究し、互いに切磋琢磨することにより、原子核に関わる理工学を通して人類と地球にとってよりよい次の時代を創っていくことを願っています。