原子力システムの基礎知識
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1.資源と燃料
原子力発電も基本的には石炭火力発電所と大きく変わることはありません.石炭火力は石炭を山元(炭田)から掘り出し発電所まで船で輸送してボイラーで燃やします.
原子力も同様にウラン鉱石を掘り出し、鉱石中のウラン(ウラン)品位が低いので精錬して、その上でウラン中に含まれる燃えるウラン 235 ( 99.3 %は燃えないウラン 238 )を取り出す為に濃縮をします.
現在主流として使用されている 軽水炉( LWR ) では4~5%程度の濃縮ウランを酸化物燃料( UO2 )に加工して燃料として使用しています.
2.燃焼
石炭火力では火炉(ボイラー)で石炭を空気 (酸素:化学反応) により燃やしその熱で水を蒸気に変え、蒸気でタービンを廻して電気を作ります.蒸気の圧力・温度によってタービンでの熱効率が多少変ります.又最近は蒸気を作らず圧力を掛けて天然ガスを燃やし高温・高圧(と言っても3 MPa 程度)のガスで直接ガスタービンを廻して電気を作る方式は熱効率が 50% 程度と高く我国始め先進国では主流になりつつあります.
原子力は原子炉容器内で酸素の替わりに 中性子 によりウラン 235 燃料を(核分裂と言う 核反応 )燃やして、熱を LWR の場合、水(冷却材)で取り出しタービンを廻して電気を作ります.
原子炉内での燃料の種類と燃焼の仕方により幾つかの原子炉の形式があります.
プルトニウム を燃料とし燃焼に使用したプルトニウム燃料以上にウラン 238 をプルトニウムに変えることが可能な増殖炉があり、通常中性子の速さが速いので 高速増殖炉( FBR ) と呼ばれています.もんじゅはこの炉型でありナトリウム( Na )を冷却材に用いています.冷却材として Na の代わりに 鉛合金 を用いる方式もあります.
この他、最近の研究によりウラン 235 又はプルトニウムを燃料としてゆっくりと核燃料を燃やすことにより、炉内でウラン 238 をプルトニウムに変えて(核変換)そのプルトニウムを燃やしより多くのエネルギーを取り出すことを可能とするキャンドル炉という概念が提案されています.この炉は燃料交換を必要とする期間が通例の1~2年を 10 ~ 30 年ごとの延ばすことが可能で再処理の量を大幅に削減できる等の利点がある画期的な原子炉です.
3.廃棄物
石炭火力では石炭が燃えた結果炭酸ガスが 100 万 KWe 級発電所で年間約 200 万トン(炭素ベース)と燃えカス(石炭殻)が約 10~20 万トン出て来ます.炭酸ガスは温暖化で問題視されているように大気中に放出され、石炭殻は従来捨てていましたが、最近ではレンガ等に再利用されています.
また従来炭酸ガスは全て大気中に放出されてきましたが温暖化対策上炭酸ガスを排気ガスから回収して固定化し地中に埋める処分方式が最近考えられる状況にあります( CCS : Carbon Capture and Storage ).今後温暖化問題が人類的課題になると見込まれ、いかに安く炭酸ガスを回収・固定化・処分するかの技術開発が進められています.
原子力ではウラン燃料が燃えた結果 100 万 KWe 級発電所で燃えカスが約 1 トン出てきます.燃えカスの量では原子力は石炭火力の約 10 ~ 100 万分の1程度極めて少量です.しかし原子力の場合には放射能を持っているため当初より完全な処理・処分、管理方法が考えられてきました.
4.廃棄物と核燃料サイクル
石炭の例での様に通常、廃棄物は棄てることが多いのですが原子力が従来エネルギー資源と大きく異なる点はこのリサイクルの点あり、当初よりこのリサイクル方式が考えられていました.昨今家電製品のように種々の廃棄物中で有益なものは回収して再利用するリサイクル方式が採られています.また家庭から出るごみは最近では分別処理によりごみの有効利用とごみ処理の効率化が図られています.
原子力のごみとも言える使用済み燃料には有効なものがあり、いかに安全で、安く分 別するかが鍵です.
原子炉から取り出した使用済み燃料は約 25 トンありこの内約 1 トンが燃えカス( 核分裂生成物: FP )です.残りの約 23 トンはウラン 238 と、新たに炉内で生産される プルトニウム(プルトニウム) 約 1% (年間 240Kg )です. 25 トンと 23 トン+1トンの差約1トンに相当する分がエネルギーとなっています(すなわち、 e=mc 2 ). このウランとプルトニウムは再利用が可能であり特にプルトニウムは新たな燃料として使用でき此れにより原子力エネルギーの利用はウラン資源量の 60 倍以上に拡大が可能となります.この点が石炭などの化石燃料と原子力との大きな違いです.このためウラン、プルトニウムを取り出し燃えカスである FP を分別する過程が“再処理”工程であり我国では現在六ヶ所村で工場を試運転中です.
従来の再処理では先ず全ての使用済み燃料を酸により溶かし、再利用可能なウラン・ プルトニウムを油で抽出する方法で原子力の燃えカス(核のごみ:通常高レベル廃棄物 HLW と呼ばれる)の分別をしています.即ちウラン・プルトニウムの回収を中心に考えてきましたがこれ以外に約 0.1 %(年間 24Kg )程度と極少量であるが マイナーアクチナイド( MA ) が あります. MA は放射能レベルが高く半減期も長い性質を持っています.
しかしこの点を利用して核拡散防止に役立てることも可能です.また MA は核燃料としても有効でありこの MA を従来 HLW として廃棄物扱いされており、上手く分別が出来れば放射性廃棄物の量的削減と半減期期間の短縮が可能となるばかりでなく、燃料資源の有効利用にもなります.この様な点から MA 分離・抽出技術の開発が現在進められており今後その実現が望まれています.
5.利用系
石炭、石油、天然ガスなどエネルギー資源は化学製品の原料として用いられていますが大半は熱源として用いられています.
原子力エネルギーも同様に熱源として用いられています.現在現実に利用するエネルギーは便利である 電気 が多用されています.この電気を作るために石炭、天然ガスが利用されています.これと同様に原子力も電気を作るために大半は利用されています.今後も電気は使いやすいエネルギーとしてその利用拡大が見込まれます.
しかし炭酸ガス排出が温暖化対策上制限される今世紀には再生可能エネルギーと共に原子力エネルギーも電気以外への利用が要望される可能性もあります.例えば現在自動車は大半がガソリンで動いていますが、将来的には 水素 を燃料とした燃料電池車( FCV )が有力視されています.この水素生産に原子力エネルギーを用いる研究が現在進められています.また途上国を中心とした生活レベルの向上により産業用・生活用水の不足が懸念されています.加えて生活レベルの向上による食生活の変化により大幅な水不足も指摘されており、海水を脱塩して 水 に替えるに必要なエネルギーとしての利用も考えられます.
原子力エネルギーシステム主要全体構成(現状)