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論文博士・22条適用者 論文発表会

令和2年1月22日(水) 会場: 先導原子力研究所  北2号館6F会議室
開始時刻/
終了時刻
発表者氏名 指導教員 論  文  題  目
9:30
11:30
小林 孝行 飯尾 俊二 トカマク型核融合炉内磁性体壁を考慮した磁気計測補正法に関する研究

トカマク型のプラズマにおいて炉心プラズマの制御や平衡解析を行う上で、磁気計測に基づく炉心プラズマの位置・断面形状の推定は必要不可欠なものであり、かつ他に置き換えられるものが開発されていない。従って、この計測手法は現在建設が進められているトカマク型核融合の実証炉ITERや、その先の開発が検討されている原型炉においても、センサ構造が単純で頑強であることから使用は避けられない。他方、現在検討されている原型炉において、トリチウムの増殖ブランケットのような炉内構造物を支える支持材として、「放射線耐性」、「高温耐性」、「低放射化特性」、「工業的生産性」の観点から低放射化フェライト鋼のF82Hなどが使用の候補となっている。磁気センサの絶縁に用いるセラミックスが放射線にさらされると、照射誘起伝導、照射誘導劣化と照射誘起起電力と呼ばれる問題が生じるため、炉心プラズマに直接対向する場所ではなく、遮蔽材の外側に設置しなくてはならない。

このため、磁気計測のセンサがプラズマとの間に磁性材を挟む構造となり、磁性を持つ材料の特性から磁気計測によるプラズマの位置・形状制御を困難にさせる可能性がある。過去の研究として、多くのトカマク型核融合炉において2テスラ以上のトロイダル磁場に伴う磁性体の飽和現象を利用して、磁性体の計測器への影響を補正する研究はなされていたが、検討されているトカマク型核融合炉の中には球状トカマクのように磁性体が飽和しない程度の背景磁場をかけるものも存在するため、飽和しない磁性体に対しても有効な補正方法が必要となる可能性がある。本研究はこのような背景のもと、磁性飽和を前提としないプラズマの位置・断面形状推定の補正方法を提案し、その効果について検証することを目的とした。

磁性体がその外部に作る磁場は磁化を用いて表されることが多いが、外部に作る磁場に限ってその磁場を考える場合には、磁性体表面に境界条件を置き、そこに磁化電流が流れているとすることで再構成することも可能である。また、原型炉において設置される磁性材を含む炉内構造物は、ブランケットの支持構造として用いられるため、離散的ではあるが非常に近接して回転対称形に近く設置される。このためこれらの磁性体は軸対称に設置されるものとして扱える可能性がある。これらのことを合わせると、磁性体が作る磁場構造は、巨視的に見て軸対称の「磁化面電流」が作っているとみなすことが可能となる。本研究の提案する手法は、このことを仮定して行った。

本研究ではまず、トカマク型核融合炉を模擬した軸対称モデルによる有限要素法を用いて、磁性体が外部の電流寄与によって作る磁場を解析した。また、プラズマの位置・形状推定の補正に扱う値である「磁化面電流密度分布」も、有限要素法において同様に解析した。解析によって得られた磁場の分布を用いて、一般的なトカマク型のプラズマの磁気計測において用いられる磁束や磁束密度といった物理量を、計測器位置における模擬的な計測値として作成した。これによって得られる値は、磁性体のない環境であれば、トカマク型プラズマにおいてプラズマの解析手法の一つとして用いられてきたフィラメント電流近似法によって逆問題として解かれ、その位置・形状が推定されるが、磁性体環境下においては従来の手法では正しく解くことができない。このため、この補正を行う手段として従来の方法では扱われない物理量である磁化面電流密度分布を同時に推定し、位置形状を推定した。

磁性体について扱う従来の方法としては、磁性体の持つ比透磁率を境界条件として設定することで、磁化面電流密度を計算し推定する手法があるが、この方法は比透磁率が既知の値であることが条件となる。このため、比透磁率が一定ではない非線形性を持つ磁性体においては、この手法を使うことは困難となる。このため、位置・形状推定においてはまず、比透磁率が一定である環境で有限要素法による解析を行い、それぞれの手法を用いて推定した値を比較した。そののちに、非線形磁場環境における有限要素法解析による疑似計測値を用いて、一般的な境界条件を用いた推定と、磁化面電流密度を推定する手法とで比較を行い、本研究の有効性を確認した。

本研究の成果として、軸対称の非線形磁場環境における一定の形状をしたモデルにおいて、単純な関数形を持つ面電流密度分布を仮定することで、面電流密度分布の推定に伴うプラズマの位置・形状の推定が可能であることを明らかにした。