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論文博士・22条適用者 論文発表会

令和3年12月10日(金) 会場: 大岡山北1号館1階会議室
開始時刻/
終了時刻
発表者氏名 主査 論  文  題  目
10:00
12:00
筒井 菜緒 竹下 健二 フェナントロリンジアミド系抽出剤を用いたマイナーアクチノイド/ランタノイド分離に関する研究

 本論文では、原子力発電により発生した高レベル放射性廃液に含まれる元素のうち、ランタノイド(Ln)からマイナーアクチノイド(MA)を分離するための抽出剤としてフェナントロリンジアミド(PTDA)に着目し、その抽出性能及び分離性能を評価した。特に、希釈剤にドデカンを使用した場合の抽出能及び分離性能に注力し、その適用性を検討する。本論文は、以下の五章で構成されている。第一章「緒言」では、原子力を利用する上で課題である放射性廃棄物の処理処分の負荷低減のため、分離変換技術の必要性を指摘した。その中の高レベル放射性廃液中の元素の群分離に必要となるMA/Ln分離について説明した。MA/Ln分離のための抽出剤としてフェナントロリンジアミド(PTDA)系抽出剤を提案し、その特性について述べた。最後にN2,N2,N9,N9-tetradodecyl-1,10-phenanthroline- 2,9-dicarboxamide (TDdPTDA)、N2,N9-diethly-N2,N9-bis(4-ethylphenyl)- 1,10-phenanthroline-2,9-dicarboxamide (Et(EtPh)PTDA)、N2,N9-dihexyl- N2,N9-bis(4-hexylphenyl)-1,10-phenanthroline-2,9-dicarbox-amide (Hex(HexPh)PTDA)、 N2,N9-didodecyl-N2,N9-bis(4-dodecylphenyl)-1,10-phenanthroline-2,9-dicarboxamide (Dd(DdPh)PTDA)、N2,N9-diocyl-N2,N9-bis(4-diocylphenyl)-1,10- phenanthroline-2,9-dicarboxamide(Oc(OcPh)PTDA)の5種類のPTDA系抽出剤の MA、Ln抽出能特性及びMA/Ln分離特性を評価するという本研究の意義と目的を述べた。

 第二章「N2,N9-diocyl-N2,N9-bis(4-diocylphenyl)-1,10-phenanthroline-2,9-dicarboxamide(Oc(OcPh)PTDA)の合成」では、本研究では使用したPTDAの一つであるOc(OcPh)PTDAの合成法を示した。まず、側鎖となるN-オクチル-4-オクチルアニリンを合成した。次に、2,9-ジメチル-1,10-フェナントロリン0.5水和物のメチル基をセレン酸化によるアルデヒド化を経由して硝酸傘下によりジカルボン酸とした。これを塩化チオニルでクロル化し、そこにN-オクチル-4-オクチルアニリンを付加した。カラム精製後にH-NMRにより合成と精製を確認して目的のOc(OcPh)PTDAを得た。

 第三章「N2,N2,N9,N9-tetradodecyl-1,10-phenanthroline-2,9-dicarboxamide(TDdPTDA)によるAm、Cm及びランタノイドの抽出」では、TDdPTDAによるAm、Cm及び一連のLnの抽出挙動を調べた。TDdPTDAを用いたEu、Am及びCmの抽出は30秒以内に抽出平衡に達した。また、3-ニトロベンゾトリフルオリド(F-3)、ニトロベンゼン及びドデカンなどの異なる希釈剤を用いた場合の分配比の抽出剤濃度依存性と硝酸濃度依存性を評価した。F-3とニトロベンゼンではAm、Cm及びLnの抽出挙動がドデカンでの挙動とは若干異なった。非極性脂肪族溶媒であるドデカン中では抽出錯体は凝集体を形成しやすく、これにより配位子及び硝酸イオンの配位数が極性溶媒であるF-3及びニトロベンゼンよりも多くなるためと考えられる。さらにTDdPTDAはニトロベンゼンやF-3だけでなく、ドデカンも実用上十分な MA/Ln分離性能を示した。

 第四章「フェニル基を導入したPTDAを用いた抽出実験及びUV-vis滴定、単結晶X線回折測定による構造解析」では、分離性能能をさらに向上させるため、PTDAのアミド基にフェニル基を導入した4つの配位子(Dd(DdPh)PTDA、Et(EtPh)PTDA、Hex(HexPh)PTDA、Oc(OcPh)PTDA)について抽出挙動を調べた。フェニル基を導入したDd(DdPh)PTDAをフェニル基のないTDdPTDAと比較したところ、100~1600倍ほどEu、Am,及びCmの分配比が高いことが分かった。次に、フェニル基を導入した4つのPTDAについて分配比の抽出剤濃度依存性、硝酸濃度依存性及び溶媒依存性を評価した。希釈剤としてニトロベンゼンを用いた場合、フェニル基を有するPTDAはアルキル基側鎖の長さに関わらず、金属イオンと配位子の量論比が1:1または1:2という結果であり、TDdPTDAの1:1錯体が支配的である結果と差異が見られた。また、ドデカン(+10vol.% 2-エチル-1-ヘキサノール)における配位子の配位数は、金属イオンと配位子の量論比が1:1または1:2であった。これはフェニル基の影響で立体障害が大きくなり、外圏への配位子の配位を妨げているためと考えられる。抽出錯体への硝酸イオンの配位については、希釈剤がニトロベンゼンの場合は金属イオン:硝酸イオン=1:1錯体が支配的である。一方、ドデカンの場合は抽出剤のアルキル基の長さによって硝酸イオンの配位数が1~3 と変化した。つまり、ニトロベンゼン中ではフェニル基の立体障害の影響を受けやすく、ドデカン中では立体障害の影響を受けにくいと考えられる。AmとCmの相互分離に関しては、ニトロベンゼン中よりもドデカン中の方がより性能を示した。UV-vis測定による錯生成定数の導出により、PTDAはフェニル基の立体障害の影響により、錯体を形成する上で最適なイオン半径が存在することが示唆された。今回用いたEt(EtPh)PTDAに関しては、Gdのときに錯生成定数が極大値となり、錯体を形成する上で最適なイオン半径であると考えられる。単結晶X線回折測定による錯体構造解析では、配位子が1つ配位した錯体であるGd(PTDA)(NO3)3 錯体と配位子が2つ配位したLa(PTDA)2(NO3)2錯体の構造を得た。金属原子との結合距離を比較した結果、アミド酸素が強く配位し、Nドナーはより遠距離で弱く相互作用していることが示唆された。抽出溶媒中でも同様の錯体が形成されていると考えられる。

 第五章「結論」では、本論文で得られた成果を総括した。PTDAの抽出特性及び分離性能を評価し、PTDAのMA/Ln分離用抽出剤としての有用性を示した。これらの結果はMA/Ln分離用抽出プロセスの改良に資するものである。