重視すべき社会の受け入れ
求められる共進化
科学技術の発展を生物の進化に例えると、突然変異に相当するのは発明、発見やアイデアなどで、環境の変化による自然選択、それに相当するのは社会の選択によるアイデアの人為淘汰によるということになります。社会は科学技術の発展によって大きく変化してきました。科学技術もその時代の社会の価値観を通して強く影響を受けます。つまり、科学技術と社会は「共進化」の関係にあると私たちは考えています。
科学技術と社会の共進化により地球が持続可能な方向に変化する条件について考えてみたいと思います。まず、第1は科学技術が健全な進化システムを形成していることです。第2は科学技術をになう集団の価値観が広く一般社会の価値観を反映していることです。第3は、科学技術が生み出す社会的価値を、社会の側が的確に評価し、その価値を社会が正しく認識し期待を抱いていることです。第4は社会が科学技術及びそれをになう集団に対して一定の信頼感を持っていることが条件となります。
原子力は共進化の条件を満たしているか
この4条件を原子力は満たしていたのでしょうか?第1条件について、原子力技術の開発経緯を見ると技術間競争も淘汰のプロセスも明確ではなく、健全な進化システムからはかなり遠い存在であったと言えます。日本における実用的な原子力技術は、主たるユーザーである電力会社の価値観を反映する形で発展してきました。電力会社の価値観と一般社会の価値観には相当に大きな乖離があり、第2条件についても満たしていたとは言い難いと思います。第3、4条件はどうでしょう。私たち生活者も電気の有用性は身にしみていますが、その発生源が化石燃料か原子力かについて社会が考える仕組みになっていません。原子力に期待する状況にはありません。しかも、原子力にまつわる不祥事のニュースは後を絶ちません。信頼してくださいといっても無理があります。
社会との健全な関係構築に向けて
原子力においては、まずは社会の信頼の構築が必須です。説明責任の履行、わかりやすい情報公開のシステム構築、技術者倫理の徹底などに加え、法令の遵守や環境保護から女性の参画に至るまで、組織の社会的責任を包括的にSR(ソーシャル・レスポンシビリティ)と呼ぶことがあります。原子力においても、SRの考え方を積極的に取り入れることが信頼回復への必要条件と考えます。
次に重要なことは、原子力という技術の持つ特質や可能性について社会が十分に認識し、そのうち何を重要と考えるかという共通の価値観を原子力推進側と社会が対話することで見つけだすことが必要です。これまでは社会が原子力に期待をかけるような状況では決してありませんでしたが、ここに来て多少の変化が見られています。価値観を共有するチャンスが訪れたと考えることができます。
その上で必要なことは、原子力に携わる人々が社会の声や意向に耳を傾け、それを指針として技術を発展させていく、つまり共進化の仕組みを社会の中に構築することが極めて大切になります。共進化の結果として、地球環境問題の克服や南北格差の是正に役立つ原子力技術を構築することが「世界の持続的発展を支える革新的原子力技術」につながっていくと確信しています。
(ロードマップ第 3 章 要旨)
(鳥井 弘之) |