原子力パーク
原子力パーク(ニュークリア・パーク)構想とは、原子力発電所と関連する原子力施設を一ケ所に集中立地する方式のことです。核燃料の製造、再処理を行う施設を原子炉に併設することで、原子力施設全体の設計や運転管理の合理化が図られます。また核燃料の輸送距離を短くでき、核拡散防止、テロ対策にも効果が期待されます。
こうした 原子力パーク構想は、原子力発電の黎明期から提案されていますが、東工大で追求している原子力パークは、放射性廃棄物・核不拡散・安全の問題解決や、遠隔地域での原子力利用へ対応している点でユニークな構想となっています。

図−1 原子力パークの構想例
原子力パークの概念と特徴
東工大が提唱する原子力パークの概念例を図1に示します。原子力パークには天然 U (将来的には Th )を供給し、燃料加工を経て原子炉へ装荷する。パーク内には複数の大型原子炉(高速炉)を稼働させ、生産したエネルギー(電力、水素、熱等)を地域へ供給します。
炉の運転の結果発生じた使用済み燃料はパーク内で再処理し、 Pu や U などの有用な核燃料物質のみならず、現在の燃料サイクルでは廃棄対象のマイナーアクチニド (Np, Am, Cm 等 ) を全て回収し原子炉へ再装荷します。すなわち「全重元素閉サイクル」を構成するとともに、リサイクル時の重元素回収ロスを最小化することにより、核燃料資源の利用効率を 100% 近くに高められます【資源の究極利用】。
また、重元素の核分裂の結果生じる I-129 等の長寿命核分裂生成物 (LLFP) は、使用済み燃料再処理の際に分離回収し、 LLFP ターゲットに加工して原子炉へ装荷する。 LLFP に中性子を吸収させ、安定な(非放射性の) FP に核変換した後、パーク外(処分場)へ廃棄する。 LLFP には、地中処分後に地下水に乗って移行しやすい核種があるため、 LLFP の核変換処理は廃棄物処分の安全・信頼性確保に寄与するものと期待されます【処分安全の確保】。
こうしたサイクルを構成することにより、パーク外へ排出される放射性廃棄物の半減期は数十万年から数百年へと大幅に短縮されます。またパークへ供給された放射性物質の毒性とパーク外へ廃棄される毒性の収支は、バランスないしは減少することとなり、原子力の利用による環境影響を小さくすることができます【廃棄物の毒性低減】。
原子力パーク+固有安全長寿命小型炉
原子力パークで大型高速炉を運転することにより、消費するよりも多くの核燃料を生産することができます【核燃料の生産】。ここで生産された核燃料は、輸送可能かつ燃料交換が不要な固有安全長寿命小型炉の燃料とします。
小規模電源、熱源等の必要な遠隔地にこの小型炉を輸送し運転します。炉心の寿命が尽きる時期には原子炉ごと交換するため核燃料管理が容易であり【核不拡散】、燃料サイクル施設を所有しない国でも原子力の利用が可能となります。また、炉固有の高い安全特性により、高度な運転・管理技術を持たない国にも導入可能となります。【原子力利用拡大】。こうした小型炉として東工大では小型鉛ビスマス高速炉を提案しています。
すなわち、東工大が提案する原子力パークとは、大型高速炉+燃料サイクル施設により構成され、パーク外の広範なエリアでの長寿命小型炉の利用を可能とする構想であり、資源・環境問題や核不拡散問題への具体的回答例を提供する構想として研究を提言します .
(ロードマップ第 5 章 5.1.1 要旨)
(高木 直行)
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