鉛合金冷却炉
今までの原子炉よりウラン燃料から60〜70倍のエネルギーを
取り出せる安全性の高い高速炉
高速増殖炉の必要性
一般の原子力発電所では、ウランやプルトニウムを核分裂させて、発生するエネルギーで燃料内の温度を高めて、この熱で水を沸騰させ、蒸気タービンを回転させて発電しています。このような原子力発電所では、ウランの中に含まれているウラン 235 を 4 〜 5% に濃縮させて、核分裂にさせています。ウラン 235 は天然のウランに 0.7% しか含まれていませんので、残りの大部分( 99.3% )のウラン 238 はほとんど燃料として利用されません。その場合、70年ぐらいでウラン燃料は尽きてしまいます。高速増殖炉は、原子炉の中でウラン 238 からプルトニウム燃料を生成させることができます。これを実用化させれば、ウラン燃料から今までの原子炉の60〜70倍のエネルギーを取り出せるようになりますので、数千年間にわたってウランを燃料として利用できるようになります。そのため、日本や世界では、将来の原子力発電所として、高速増殖炉の開発を行っています。
鉛合金冷却炉とは
高速増殖炉では、冷却材として水の代わりに金属ナトリウムを使います。こうすることで、核分裂で発生する中性子の数が多くなり、ウラン 238 に余分な中性子を吸収させることでプルトニウム 239 を増殖できるのです。しかし、金属ナトリウムは化学的に活性です。蒸気発生器で伝熱管が破損すると水と接触して水素を発生させます。また、配管から漏れると空気と激しく反応して燃焼します。ナトリウムの代わりに鉛合金(鉛や鉛ビスマス合金)を冷却材に使うと、このような問題は解消します。鉛や鉛ビスマス合金は、他にも核熱的に多くの利点があります。そのため、鉛ビスマス合金冷却炉は将来の高速増殖炉の候補として期待されています。
鉛合金冷却炉の可能性
鉛合金冷却炉の最大の問題は、液体の鉛合金が材料を腐食しやすいことです。そこで、腐食しにくい鋼材を開発し、さらに高温でも腐食しない耐熱金属およびセラミックスを調べる研究を行い、構造材料と燃料被覆材料への適用の見通しを得ます。ほかにも、原子炉システムの概念を構築する研究(図−1参照)や、安全性の評価、熱流動、ポロニウム対策など試験研究を行います。

図−1 鉛合金冷却炉の設計
世界の持続的発展のために将来の 鉛合金冷却高速炉の 様々な利用の可能性を提言します ( 表−1参照) 。
表−1. 将来の 鉛合金冷却高速炉 の利用の可能性
炉 型 |
用 途 |
中型発電炉、モジュール炉 |
既存電源系統の軽水炉の代替 |
中小型炉 |
化学プロセス用蒸気・電気併給 |
長寿命炉小型炉、原子力バッテリー |
開発途上国・特殊地域の電力供給 |
小型炉 |
温水供給・海水淡水化 |
高温小型炉 |
水素製造 |
高燃焼度炉心 |
ウラン有効利用 |
専焼炉、加速器駆動核変換炉 |
MA の利用と短寿命化 |
(ロードマップ第 5 章 5.1.3 要旨)
(高橋 実)
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