東京工業大学 21世紀COEプログラム 世界の持続的発展を支える革新的原子力
  原子力とは 原子力の必要性 原子力の問題点COE-INES ロードマップとは

5.そのためのロードマップとはどのようなものか?

熱エネルギー利用システム

「炭素循環型エネルギーシステムと原子力」

石油が足りません!

近年、世界的に化石燃料の消費が増え、燃料の不足感から燃料価格の高騰・不安定が続いています。また、京都議定書が目指すように二酸化炭素発生削減のため、脱化石燃料の動きが重要となっています。とくに自動車は現在、化石液体燃料であるガソリン・軽油に依存し、石油供給の影響を受けやすく、また二酸化炭素発生削減が強く求められております。

そこで COE-INES では自動車市場にむけて原子力を用いた炭素循環型エネルギーシステムを提案しております。またこの実現に向けての研究開発を今後とも推進してまいります。

 

石油に代わるエネルギー

次世代自動車として電気方式、化石代替液体燃料方式が検討されております。電気方式では燃料電池や二次電池の利用に注目が集まっています。しかしながら燃料電池は高価格が、また二次電池は低エネルギー密度、長い充電時間などが課題です。バイオエタノールに代表されるバイオマス由来の液体燃料は二次電池に比べエネルギー密度が格段に高く、液体のため貯蔵、輸送、充填が簡易な点に利があり、自動車用の石油代替エネルギーの有力な候補です。バイオマス燃料は消費で排出される二酸化炭素が再び植物に吸収され、大気中の二酸化炭素の増加を招かないことから「カーボンニュートラル」であり、持続的なエネルギー媒体といえます。

 

原子力を用いた炭素循環型エネルギーシステムの開発

 一方で、トウモロコシ等はバイオマス燃料源として需要が高まった結果、その価格が高騰し市場の混乱を招いております。このためバイオマスエネルギーのより効率的な利用が望まれています。図 1 にバイオマス利用型カーボンニュートラルシステムを示します。一般的にバイオエタノール製造ではバイオマス原料の約 1/3 がエタノールに変換されますが、残り 2/3 は製造過程の糖化・発酵で環境に失われます。そこで、原子力の活用が期待できます。図 2 に提案する炭素循環型バイオマス・原子力協働エネルギーシステムを示します。原子力の熱利用によるバイオマスの高温ガス化、または原子力由来の水素利用による軽質化により、バイオマス単位量あたりの炭化水素燃料収率を最大 3 倍程度向上することが期待できます。本システムは太陽と原子力をエネルギー源に炭素を高効率に循環再利用するカーボンニュートラルなシステムです。この技術は木材等の非食品、未利用バイオマスにも応用が可能です。 COE-INES ではこの炭素循環システム実現に向けて“炭素リサイクル型原子力水素キャリアシステム”や“非平衡燃料改質器”の研究開発を今後とも進めてまいります。資源をほとんど持たないわが国にとってこの炭素循環型エネルギーシステムは化石燃料依存からの脱却と二酸化炭素排出抑制を両立できる有効な手段と期待できます。

原子力エネルギーが石油代替エネルギーにも活用可能なことがご理解頂ければ幸いです。

 


図1 従来のバイオマス利用型カーボンニュートラルシステム


図 2  炭素循環型バイオマス・原子力協働エネルギーシステム

(ロードマップ第 5 章  5.1.4  要旨)
( 加藤 之貴)