分離技術
−マイクロ場での反応を利用した核種分離法−
軽水炉使用済燃料の再処理に伴い超ウラン元素 (TRU) 及び核分裂生成物 (FP) を含む硝酸水溶液、いわゆる高レベル廃液 (HLW) が発生します。この HLW は、ガラス固化した後、深地層処分することが計画されています。ただし、この HLW の放射性毒性を見ますと、初期の数百年は 90 Sr, 137 Cs 等の核種に支配され、 300 年以降は長寿命核種である Np, Am, Cm 等のマイナーアクチノイド (MA) に支配され、 100 万年経過しても毒性は 1/20,000 にしかなりません。もし、このような MA を含めた長寿命核種を分離し、高速炉や加速器により短寿命の核種に変換(変換効率 99 %)できたなら、放射能レベル低減期間の大幅な短縮化と潜在的放射性毒性の低減化が図られます。その結果、地層の安定性 , ガラス固化体の貯蔵容器の健全性を経験的に保証しうる数 100 年単位に短縮することができ、地層処分の健全性の向上と地球環境への負荷の大幅な低減化をもたらすと期待されます。
このような観点から、 HLW からの核種分離技術の開発、特に 3 価の MA の分離技術の開発が進められております。 例えば、特殊な抽出剤を用いた溶媒抽出法を基本とした分離法や 抽出クロマト法があります。この抽出クロマト法は、 3 価の MA (MA(III)) に対する選択的抽出能を有する化合物を有機樹脂に含浸したもの、あるいは多孔質シリカの細孔表面に抽出剤(吸着剤)を担持させたものを吸着材(固体抽出材)としてカラムに装填し、このカラムに MA を含む溶液を通液することで分離する方法であります。この方法は、「高速増殖炉サイクルの実用化戦略調査研究」において、今後の研究・開発課題として取り上げられております。また、溶融塩中での核種の酸化還元電位の違いを利用した乾式法による分離技術も研究・開発も活発に行われており、原理的な成立性は確認されております。
このように、各種分離技術が研究・開発されておりますが、十分な 選択性・効率性が得られておりません。これは、 従来の方法は、基本的にはバルク相を制御することによるマクロな分離法であり、 より 高効率・高選択性核種分離を実現するためには、発想を変えたマイクロ・ナノレベルにおける現象を基礎とした革新的技術の開発が望まれております 。
そこで、以下に示しますマイクロ場での反応を利用した核種分離法の研究を行いたいと考えております。
目標:
HLW から MA(III) のみを 99.9% 以上回収しうる迅速かつ簡便な核種分離システムの開発を目標と致します。
目標を可能にするための技術:

図 -1 マイクロ化学チップ
- MA(III) に対する選択的抽出能を有する化合物の開発とそれを担持した高性能固体抽出材を用いた抽出クロマト核種分離技術
- 高性能固体抽出材作製のための樹脂あるいは多孔質シリカ内の細孔(マイクロ空間)への抽出剤を均一にかつ高密度で化学的に担持しうる技術
- マイクロ化学チップ(図 -1 )を利用した核種分離技術
- 液供給 , 抽出・分離 , 液回収等の一連の分離操作を集積し、かつ隔離された場での簡便な遠隔操作が可能な集積型マイクロ化学チップ核種分離技術
これらの技術をさらに発展させ 、 HLW 中の核種をそれらの 特徴に応じて分離する(いわゆる群分離)技術及び他の再処理廃棄物の効率的な処理技術の確立へと導き、核変換技術と合わせて、将来の地球環境に影響を及ぼさない放射性廃棄物処理・処分技術を構築致したいと考えております。
期待される効果:
抽出クロマト法では、課題であった選択性の大幅な向上と抽出剤の溶出がなくなることから、コンパクトでかつ効率的な核種分離が可能となると期待されます。
また、マイクロ化学チップを液 - 液抽出に利用した場合、マイクロチャネルの有します空間が狭い,比界面積が大きい,熱容量が小さい等の特徴を活かすことにより、核種分離を非常にコンパクトな装置で高速・高効率で行うことが可能になると期待されます。
さらには、抽出分離とその他の処理単位操作を半導体チップのように基板上に集積化したマイクロ化学チップシステムを構築することより、隔離された施設内でも簡便な遠隔操作により核種分離が行うことが可能になると期待されます。
(ロードマップ第 5 章 5.2.2 要旨)
( 池田 泰久)
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