原子力教育
新科学技術の利用判断
研究開発した科学技術を利用するか否かを決定する場合、その科学技術によって受ける利益と損害を比較評価して決定するのが合理的です。そして、この決定権は、我が国においては主権者たる国民にあると考えるのが基本です。利益を享受するのも損害を被るのも国民です。しかし、ここで重大な問題が発生することがあります。一般に国民は、新しい科学技術とその利用について、利用の可否を合理的に判断できるだけの十分な知識を持っていないという問題です。この問題は、エネルギーや食料等の生活基盤に係わる分野では極めて深刻です。判断を誤れば、国が衰退の一途を辿るからです。
原子力技術の説明責任と人材育成
従って、新しい科学技術を研究開発してその利用を推進しようとする場合、関係者は国民に対して新科学技術の内容、その利用によって享受する利益と被る損害を十分に説明する必要があります。特に原子力技術やバイオ技術等のように国民の生活基盤に密接している場合は、この国民に対する十分な説明は義務ともいえます。
このため原子力では、国民に説明できる新しいタイプの原子力研究者・技術者の育成が必要です。また、原子力科学者・技術者による国民への説明には量的な限界があるので、原子力科学者・技術者と国民の間を繋ぐ役目の原子力インタプリタや原子力コミュニケータといった人材の育成が必要です。
原子力技術説明の目的
また、国民に対する原子力の説明の目的は二つあります。一つは上に述べたように、国民に原子力技術の研究開発利用の可否判断を合理的に行って貰うためです。このために、国民に対して「原子力の意義」「放射線」「原子力技術」「安全」について分かり易く説明し、これらを科学技術的に理解して貰い、感情的では無く合理的に可否判断を行って貰います。もう一つの目的は、原子力分野での優秀な人材の確保です。小学校から高校の教育や家庭教育で、教員や家族から原子力研究開発利用の意義を学び、原子力技術が国民生活の基盤を支える重用な科学技術であることを理解すると、当然ですが、原子力分野の科学技術者を志す優秀な人材が増加します。そこで、上で述べた各種人材の育成だけではなく、優秀な人材の確保をも目指した原子力教育システムが必要です。
提案する原子力教育ロードマップ
そこで、人材育成と教育システム整備を中心として、 COE-INES 終了後の平成 20 〜 22 年度の 3 年間を制度設計、平成 23 〜 25 年度の 3 年間を試行・評価と連携機関との調整、平成 26 〜 31 年度の 6 年間を実施・中間評価、平成 32 〜 38 年度の 6 年間を実施・評価とする原子力教育ロードマップを提案します 。
原子力教育を受けた児童が成人して家庭を持って子供をもうけ、その子供の家庭教育に原子力教育効果が反映され、子供が更に原子力教育を受けて成人するまでには 50 年かかりますが、その時には国民は、原子力技術の研究開発利用の可否を合理的に判断でき、また、原子力分野で優秀な人材が活躍しているものと考えています。
(ロードマップ第 6 章 要旨)
( 井頭 政之) |