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平成16年1月5日〜2月27日
原子核工学専攻博士後期課程3年 相楽 洋
国際原子力機関(IAEA)、ウィーン、オーストリア
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国際原子力機関(IAEA)にて、COE-INES学生教育プログラムの一環である、国際インターンシップに参加した。IAEAは、アイゼンハワー大統領の国連総会演説、"Atoms For Peace"(1957)を受けて設立された、原子力の平和利用推進を行う国際機関である。ここで、自分の研究対象である「マイナーアクチナイド(MA)の核変換」や「核拡散抵抗性」に関連する実務を経験する事、そして、国際機関での仕事を通し国際経験を積む事を目的に持ちインターンシップに臨んだ。
配属されたのは、Nuclear Fuel and material section/Department of Energyで、課長のMr. Kosaku Fukuda、SupervisorのMr.Mehmet Ceyhanの指導の下、(1)IAEAのWEB上で公開予定の原子力燃料サイクルマスバランス計算コードVISTA上の、原子炉炉心燃焼計算コードCAINに超ウラン元素燃焼計算チェーンの整備を行う事、(2)ウラン酸化物燃料、ウランープルトニウム混合酸化物(MOX)燃料、U-Pu-MA酸化物燃料のPWR、BWR、FBR炉心における一群断面積を準備する事、(3)軽水炉燃料サイクル内のプルトニウムの核拡散抵抗性を高めるために、U-Puと共に、崩壊熱(567W/kg)、自発核分裂中性子発生率(2660n/g/sec)の高い238Puの親物質であるMAもリサイクルを行うシナリオを導入し*1、MA、Puのマスバランス及び、燃料サイクル内のPuの核拡散抵抗性を議論する事、以上の3点を業務内容とし仕事を行った。(1)、(2)が主にIAEA側から私に求められたものであり、(3)は私の大学での研究と絡めて自主的に行った。
結果として、(1)については、VISTAコードにおける超ウラン元素燃焼チェーンをBateman Equationに基づいて構築し、ORIGENコード及びSRACコードの燃焼計算とのベンチマークを行いながら整備した。(2)については、汎用原子炉中性子工学計算コードMCNP4C及びSRAC2003を用いてウラン酸化物燃料、MOX燃料、U-Pu-MA酸化物燃料のPWR、BWR、FBR内燃焼時の一群断面積を準備した。
また(3)については、通常の軽水炉燃料サイクルに加え、軽水炉の使用済み燃料からのウラン、プルトニウムと共にマイナーアクチナイドを回収、燃焼し、プルトニウムの核拡散抵抗性を高めるPu改質軽水炉*1を導入した(図1参照)。ケーススタディとして、日本の軽水炉燃料サイクルにPu改質軽水炉を導入した例を検討した。原子力燃料サイクルマスバランス計算コードVISTAで計算を行ったところ、全軽水炉出力(50GWe)の10%程度を2010年にPu改質軽水炉に置き換えた場合、2050年までに通常軽水炉から排出された余剰プルトニウムを全て238Pu同位体割合が10%以上を含む核拡散抵抗性の強いプルトニウムに改質することができる事が確認できた(図2、図3参照)。更に2050年以降に、改質されたプルトニウムをMOX燃料として多重リサイクルを行った場合、全軽水炉出力(50GWe)の10%程度を改質Pu-MOX軽水炉で置き換えれば、燃料サイクル全体のプルトニウム生成と消滅のバランスが取れた平衡状態に至り、この時のプルトニウムは核分裂性核種の少ない核拡散抵抗性高いものになっていることが確認された(238Pu>10%、240Pu=30%、242Pu=30%)(図2、図3参照)。
以上よりマスバランスの観点から、U-Pu-MAのリサイクルにより、将来の核燃料サイクルがより核拡散抵抗性の高い状態で行え、MAが「ごみ」ではなく「宝」として将来の原子力*2に貢献できる可能性を示せた。
最後に、就職先としてみた場合のIAEAについて。IAEAでの職員の仕事は、査察官か、世界各国からプロジェクトに必要な研究者・技術者を呼び寄せ自らはまとめ役に徹する、プロジェクトマネージャーがほとんどである。後者での仕事には幅広い人脈、コミュニケーション能力のみならず、しっかりとした技術的バックグラウンドが求められる。将来の就職先として考えた場合、まずは日本の研究機関やメーカーで実務を積み、その上で働くべき職種である事を感じた。実際に課長クラス以上のポジションには、15年以上の実務経験が要求されているが、JAERIやJNC、電力会社からの出向者の多い日本人職員の評価が特に高いのは、技術的バックグラウンドがしっかりしているからに他ならないと思う(図4)。
原子力平和利用推進には、日本はイニシアティブを取って絡んでいくべきだし、唯一の被爆国として核兵器の怖さを身をもって知っている日本にはその義務があると思っている。将来、原子力技術分野での国際貢献を行ってみたい私にとって、今回のインターン経験は今後のステップを具体的にイメージする上でとてもいい機会になった。このような素晴らしい機会を与えてくださった、COE-INESプログラムに感謝いたします。
*1:M. Saito et al, "Advanced Nuclear Energy Systems for Inherently Protected Plutonium Production", International Conference on Innovative Technology for Nuclear Fuel Cycle and Nuclear Power, Vienna, Austria, 2003
*2:齊藤正樹, "原子力の平和利用と持続的繁栄に向けて 強い核拡散抵抗性を持つプルトニウムの実用化(PPP計画)", 月刊エネルギー5月号(日本工業新聞社), p32-34, 2004

図 1 プルトニウム改質軽水炉を導入した軽水炉燃料サイクルシステム

図 2 燃料サイクルにおけるPuとMAの蓄積
1980〜 通常軽水炉(UO2燃料)運転開始 全出力50GWe
2010〜 Pu改質軽水炉(U-Pu-MA酸化物燃料)運転開始 出力5GWe
2050〜 フルMOX軽水炉(改質Pu-MOX燃料)運転開始 出力5GWe |

図 3 異なる使用済み燃料中からのPu同位体割合
UOX SF:初期燃料3.3%濃縮U, 33GWd/tHM燃焼度, 5年間冷却
U-Pu-MA SF:初期燃料(U0.865,Pu0.1,MA0.035)O2, 60GWd/tHM燃焼度, 8年間冷却
DPu MOX SF:初期燃料(U0.9, Pu0.1)O2, 60GWd/tHM燃焼度, 10年間冷却 |

図 4 部署でのFarewell Partyにて
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